2018年3月5日月曜日

私は介護で、早食いになりました・・・・・


手探りの、介護生活が始まった。

 

6時、容赦ない目覚ましの音で無理やり引っ付く瞼をこじ開ける。バタバタと朝ごはんのしたくをし、母の分はお盆に乗せて母の部屋まで運ぶ。母はまだ気持ちのよさそうな寝息をたてている。それを強引に起こす。

「もう、起きるの?」

 仕方がないではないか、こっちには仕事が待っているのだ。

「お母さん、台所まで食べに行くよ」

 いえいえ、よろけるあなたを支え、台所まで誘導し、席に安全に座らせる、その方がずっと時間がかかるのですよ。部屋まで運んでしまった方が、私にとっては都合がいい。母が食べている間に時計とにらめっこで朝食を自分の口に押し込み、最低限の身支度を整える。まったく、食事はお腹のどこに入って行ったものやら、全く分からないありさまだ。

 

そしてまたもやバタバタと母の身支度を済ませるのだ。まずは、ベッドの傍らの携帯トイレを掃除しなければならない。そして、次は着替えだ。デイに行くのに、パジャマというわけにはいかない。しかしながら、これがけっこう時間がかかるのだ。何しろ、健康でピンシャンしている高齢者を着替えさせるのとは、訳が違う。それでも何とか時間内に済ませ、720分、私は大慌てで家を飛び出すのだ。

 

会社に着くころには、すでに一仕事終わった気分である。気を取りなおして仕事に取り掛かる。と、目の前の電話が鳴りだす。出てみると、母がお世話になっているデイケアの病院からではないか。一体何事かといぶかしむと、

「お母様、お風邪を引いたのですか?」

「へっ!?」

「お宅に伺ったら、ベッドに寝てらして、今日は身体の具合が悪いから、休むと・・・・」

 なんと、あれほど私が苦労して着替えをさせた衣服を脱ぎ捨て、またまたベッドにもぐりこんでしまったのである。一体、私のあの朝の苦労はナニ!? どっと疲れたのは、言うまでもない。

 

それでも仕事は待ってくれない。頭を仕事に切り替え、目の前の伝票の山を片づけるが、定時に終わってくれない悲しさよ。当然残業になるのだが、6時、7時、と時間が経つうちに、段々胸がドキドキして来て、仕事が手につかなくなる。デイから帰って来て、家に一人で居るはずの母の様子が気にかかるのだ。何だか、保育園に幼い子供を預けて働いているお母さんの気分である。

 

7時に帰れればまだ、早い方、89時、どうかすれば10時に帰って来てから、私の家事&介護タイムが始まる。夕食は早さが命だ。味は二の次、ともかく早く出来るものをバタバタと作る。やっと出来上がったぞと、母を呼んでくる。来ない・・・・・・。もう一度、呼ぶ。来ない!!! 母の部屋から台所まで、ほんの15歩ほどの距離だが、だいたい母が姿を現すまで、15分から20分はかかる。それを見越して出来上がる20分前に呼ぶと、5分で来たりするから、イラつくわけだ。

 

さあ、楽しい夕食タイム、といきたいところだが、食べ終わった後に待っている仕事を考えると、つい早食いになってしまうのは、いたし方あるまい。マジでこの頃から早食いの癖がついてしまい、未だに治らないから困ってしまうのだけれど。

 

食べ終わったら後片付けだ。それから母の寝支度を整え、やっと一息つく。風呂から上がると、もはや時計は12時を回っている。それでも「やれやれ、やっと今日も一日が終わる」とほっとしていると、いきなり母が背後から、

「レックスちゃん・・・・・」

 杖を片手に、せっかく寝かしつけたベッドから居間まで起きだしてきたのだ。

 私が飛び上がって驚いたのは、言うまでもない。

「なに!?」

「私が手間をかけてしまうから・・・・」

 気持ちはありがたいが、本音は、

「頼むから、一人にさせてくれ!!」

 と叫びたいくらいだ。

 

そして、そんな気遣いをしてくれる優しい母、と言いたいところだが、実は一切こちらの都合はおかまいなしなのが、泣けるところだ。デイには行き渋る、着替えは自分で全くやろうとしない、ともかく一から十まで、自分のペースなのだ。

これは母に限った話ではなく、どうも高齢者とはそういうものらしい。しかし、働いている身としては、たまったものではない。

 

かくて、今日もベッドに入るのは午前1時を回ってしまう、というわけだ。これが、月曜から金曜まで続く。そして、土曜日は母をクリニックへ連れて行ったり、自分の用事を済ませたり、に費やされる。日曜日は朝から晩まで溜まった家事の片づけだ。自分の時間と言えるのは、1週間に12時間、テレビの前に疲れた体を横たえている間に終わってしまう。

 

しかも、母とは毎日、口ゲンカだ。要は、デイに行かなくちゃダメ、行きたくない、の。こちらにしてみれば、

「行きたい、行きたくないの話じゃないだろう、行ってもらわなければ、私が困る!」

 なのだが、母は一切聞き入れない。毎晩、電話の向こうの姉を巻き込んでのケンカが始まるのだ。

 

全く、この頃は本当に心身ともにきつかった。お腹がへった、とかご飯が美味しいとか、そんな感覚は皆無だった。覚悟はしていたが、思うのとやるのとでは雲泥の差、というのがよく分かった。

 

今、介護を始めたばかりの方に言いたい。介護は段々大変になる、というのは間違いだ。むしろ、始めの頃の方が、辛いことが多い。少しずつお互いにペースがつかめてくると、それなりに基盤が出来上がってくるので、むしろラクになることが多い。

だから、段々ラクになるよ、と気持ちを明るく持ってほしいと思う。ただ、漠然とラクになるわけではない。少しでも自分がやりやすくなるように、工夫をしていこう。方向性を定めよう。

 

さて、介護と家事、仕事に忙殺される生活が始まったレックスだったが、少しずつ新たな問題が浮上し始めた。それが、母の認知症疑惑だったのである。

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