レックス、喫茶店が好きである。カフェじゃないよ、あくまでも喫茶店。カフェと喫茶店、どこが違うんじゃ!? と聞かれると、ちょっと困るんだけど。あえて言うなら、カフェは小奇麗で若い女性客の率高し、喫茶店は昭和の香りが漂う空間、という感じだろうか。店主の個性が反映されているのも、喫茶店の良い所だ。昔はけっこう個性的で面白い喫茶店がそこかしこにあったものだ。今はカフェに押されて、すっかり姿を消してしまったが。
アレはもうずいぶん前のこと。安月給とは言え、正社員のパラサイト生活を謳歌(?)していた私は、マッサージに凝っていた。で、その日も某マッサージ店を予約していたのだが、かなり早く着いてしまい、中途半端な時間が余ってしまった。そこで、
「ちょっと一休みするか」
とばかり、目についた喫茶店に飛び込んだのである。
ふと、私の斜め前に座っている一組の男女が、私の目を引いた。男性は30代後半から40代初めぐらいだろうか、服装も地味なら顔や雰囲気も地味とことん地味、もっさりとした人である。女性は20代後半ぐらい、スーツをパリッと着こなし、きちんとした身じまいの中にも華やかな雰囲気が漂っていた。何と言うのだろう、どう見ても、
「ありえねぇ・・・・・」
という組み合わせの2人で、前から見ても横から見ても、斜めから見たって、恋人同士には見えない。かと言って友人同士という感じもしないし、仕事関係というにも無理がある。男性は、
「これまでの生涯にわたって、女性にはじぇんじぇん縁がありませんでした!」
と顔に書いてあるような人で、方や女性はと言えば、いかにも、
「仕事も私生活もバリバリよ!」
と言いたげな人。どこをどうすればこの2人の組み合わせが成立するのか、全く理解に苦しんでしまった(大きなお世話だがよ)。むろん、意外な組合せというのも世間には無くはないが、何しろ2人の間にただよう空気が何とも微妙なのだ。見るともなく見ていると、何やら女性の方が熱心に男性に話しかけ、男性は煮えきらないような返答をしていた。そんな男性に、女性はやや苛立っているようだった。
「あんなイケイケなお姉ちゃんが、どうしてあの男の人とこんな所で話し込んでいるのかな。あんまり楽しそうにも見えないけど」
と興味津々に不思議に思っていた私の耳に、ツイッとお姉ちゃんのこんな言葉が飛び込んで来たのである。
「ですから、こちらの商品でしたら保険金額も○○で~」
これで全て合点がいった。
「そっかぁ~、保険の勧誘かぁ~」
お姉ちゃんは保険の外交員、で、あのいかにもパッとしない男の人はそのターゲットだったのだ。納得、納得。
まあね~、でなけりゃ、あのお姉ちゃんがああいう男を相手にするわけがないわな。ましてや、保険の外交員の若い女性なんて、その辺の事務のお姉さんよりはるかにバリバリで、性格だってメリハリきいてるだろうし。給料だっていいはずだ。
そうそう、私が会社に勤めていた時も、私の会社の取引先のオヤジが、自分のお気に入りの保険外交員の女の子を連れて来たことがあったっけ。で、ウチの会社にいた「もてない、さえない、頭髪無い」の3拍子揃った40代独身♂を保険に加入させようと、彼女に紹介したのだ。ついでに、
「ね~、誰か君の友達をこいつに紹介してやってよ! こいつ、まだかみさんもらってないからさ!」
とよけいなことまで言った。傍で聞いていたレックス、思わずのけぞっちゃいましたよ。
「それ、絶対にありえないから。無理だから、接点ないから、このお姉ちゃんの友達とコイツには」
それは、このレックスにブラッド・ピットの友達を紹介しろというくらい無理があるぞ。だって、保険に入ってもらう大切な客であるはずの彼を、お姉ちゃんが内心バカにしきっているのを、しっかりレックスは見抜いていたからね。っつーか、レックスに見抜かれるほど、それはあからさまだったと言える。案の定、
「そうですね~、そうしますね~」
と調子のいいこと言いつつ、その後全く音沙汰なし。保険に入ってしまえばこっちのもの、オヤジの機嫌さえ取り持っておけば、こんなヤツはどーでもよし、ってなもんで。
ま、それはともかく。
喫茶店のおかしな2人組も、そんな保険外交員のお姉ちゃんとそのターゲット男性だったのだ。あああ、きっとあの男の人、こんな若い、派手なお姉ちゃんと2人だけでお茶すること自体、めったにない(下手したら最初で最後・・・・)ことなんだろうなぁ。相手には札束にしか見えてないのに、「彼女とここでお話しできる嬉しさ」が体中からにじみ出ているよ。
そんな嬉しいひと時を延ばしたいのか、それとも単に保険に入る金が無いのか、案に反して男の人は中々「入る」と言わないようで、お姉ちゃんは焦れていた。
「ちょっと、トイレ」
男の人が席を外し、お姉ちゃん1人になった時、レックスしっかり見てしまいましたよ。
「ったくな~、やってられっかよ、このタコ。いいかげん、いつまでしゃべらせる気かよ!」
としっかり顔に書いて、お姉ちゃんが椅子の背もたれにふんぞり返るのを。
う~ん、その手のひらを返すような、見事な変貌ぶりがステキ♪
おかげで、マッサージの時間まで楽しく過ごすことが出来た。
こんなステキな人間模様が見られる場所、昭和の香り漂う喫茶店に、あなたも来てみませんか!?
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